参照用語集

量子アーカイブ

簡潔な定義、詳しい説明、関連語、章と演習へのリンク。

基礎

量子ビット

英語表記: Qubit

量子情報の基本単位として使われる二準位の量子系。

純粋状態としての量子ビットは、二次元複素ベクトル空間の規格化されたベクトルで表されます。隠れた古典ビットでも、二つの古典値を同時に保存する箱でもありません。

基底状態

英語表記: Basis state

量子状態を記述するために選んだ座標系の基準ベクトル。

単一量子ビットの計算基底では |0> と |1> が基底状態です。基底は記述のための座標系であり、系が密かにどちらかの値を持つという主張ではありません。

計算基底

英語表記: Computational basis

回路記述や Z 基底測定で標準的に使われる {|0>, |1>} という基底。

他の基底も選べます。物理状態が同じでも、測定基底を変えると観測される確率分布が変わることがあります。

状態ベクトル

英語表記: State vector

純粋な量子状態を表すベクトル。

同じ物理状態でも、異なる基底で表せます。状態ベクトルは測定結果の確率だけでなく、確率振幅と相対位相を含みます。

ブロッホ球

英語表記: Bloch sphere

単一量子ビットの純粋状態を、大域位相を除いて幾何学的に表す球面。

相対的な振幅と相対位相を一つの球面上に表します。便利な図ですが、多数の量子ビットへ単純には拡張できません。

状態と位相

確率振幅

英語表記: Probability amplitude

絶対値の二乗が測定確率になる複素係数。

確率振幅は大きさと位相を持ちます。確率にすると位相情報は見えなくなるため、同じ確率を持つ状態でも後の操作で異なる振る舞いを示します。

規格化

英語表記: Normalization

完全な測定基底に対する確率の合計が 1 になる条件。

|psi> = alpha|0> + beta|1> では、|alpha|^2 + |beta|^2 = 1 が規格化条件です。

重ね合わせ

英語表記: Superposition

基底状態のコヒーレントな線形結合。

重ね合わせは、あらかじめ決まった値を知らないだけの状態ではありません。成分間の相対位相が、後の干渉に影響します。

相対位相

英語表記: Relative phase

重ね合わせの各成分の間にある位相差。

相対位相は、後の量子ゲートによって測定確率の差へ変換されるため、物理的な意味を持ちます。

大域位相

英語表記: Global phase

状態ベクトル全体に共通に掛かる位相因子。

e^{i gamma} だけが異なるベクトルは同じ純粋状態を表します。ユニタリ発展は共通因子を保ち、どの測定でも結果の確率は同じです。相対位相とは異なります。

干渉

英語表記: Interference

確率振幅が強め合ったり打ち消し合ったりすること。

量子アルゴリズムでは、有用な結果の振幅を強め、不要な結果を抑えるために干渉を使います。これは、すべての答えを単純に同時試行するという意味ではありません。

位相キックバック

英語表記: Phase kickback

制御操作により、関数に関する情報が別のレジスタの位相として現れる現象。

位相キックバックは、関数の性質を相対的な符号へ変換し、その後のアダマールで測定確率の差へ変えるために使われます。

測定

測定

英語表記: Measurement

選んだ基底に従って古典的な結果を返す物理的操作。

射影測定は測定後状態も変えます。保存されていた古典値をただ読み取る操作ではありません。

測定基底

英語表記: Measurement basis

測定で区別する選択肢を定める正規直交基底。

計算基底測定と X 基底測定は、同じ状態に対して別の物理的な問いを投げかけます。

ボルン則

英語表記: Born rule

確率振幅から、絶対値の二乗によって測定確率を得る規則。

ある基底で測定するとき、各結果の確率は、その基底ベクトル方向の成分の絶対値二乗で与えられます。

測定後状態

英語表記: Post-measurement state

測定結果が得られた後に割り当てられる状態。

理想的な射影測定では、同じ測定を直後に繰り返すと同じ結果が得られます。

ノイズ

英語表記: Noise

量子状態や記録された結果を変えてしまう望ましくない相互作用や不完全性。

入門的なモデルにはビット反転、位相反転、脱分極、振幅減衰、測定誤差などがあります。これらはモデルであり、すべての装置を完全に表すものではありません。

デコヒーレンス

英語表記: Decoherence

制御されていない環境との結合により、系の縮約状態のコヒーレンスが失われること。

位相緩和は選んだ基底の非対角成分を抑え、振幅減衰はエネルギー緩和をモデル化して占有数も変えます。デコヒーレンスは知識不足だけではなく、開放系の物理過程です。

操作

量子ゲート

英語表記: Quantum gate

理想回路モデルで用いるユニタリな線形操作。

理想ゲートは振幅をユニタリに変換し、可逆です。ノイズを含む開放系の発展、損失、リセット、測定には、より一般的な量子チャネルの記述が必要です。

アダマールゲート

英語表記: Hadamard gate

計算基底状態と |+>, |-> 状態を結びつける単一量子ビットゲート。

H は |0> と |1> から等しい大きさの重ね合わせを作り、位相差を決定的な結果へ変換することもできます。

パウリXゲート

英語表記: Pauli-X gate

計算基底で |0> と |1> を入れ替えるゲート。

一般の重ね合わせに対しては線形に作用し、それぞれの確率振幅を反対側の基底成分へ移します。

制御ゲート

英語表記: Controlled gate

制御量子ビットの状態に応じて標的量子ビットへの作用が変わる複数量子ビットゲート。

CNOT は制御が |1> のとき標的を反転します。重ね合わせでは線形性により各基底成分へ規則が適用されるため、H の後に CNOT を置くとベル状態を作れます。

複製不可能定理

英語表記: No-cloning theorem

任意の未知の量子状態を完全にコピーする物理操作は存在しないという定理。

|0> と |1> をコピーする規則は、線形性のためすべての重ね合わせを同時にはコピーできません。この定理は未知の任意状態に関するもので、既知の状態を何度も準備することを禁じるものではありません。

オラクル

英語表記: Oracle

約束された関数や印づけられた項目を符号化する、アルゴリズム解析上のブラックボックス操作。

オラクルアルゴリズムの主張は、約束条件のもとでの問い合わせ回数に関する精密な主張です。入力ロード、ノイズ、資源を考えずに無制限の実用高速化として語るべきではありません。

複数量子ビット

量子もつれ

英語表記: Entanglement

独立した単一量子ビット状態の積に分解できない複数量子ビット状態。

量子もつれは分離可能な記述では表せない相関を生みますが、超光速通信を可能にするものではありません。

テンソル積

英語表記: Tensor product

個別の系の空間を、結合した状態空間へ組み合わせる操作。

2量子ビットでは、計算基底を |00>, |01>, |10>, |11> の順で並べることがよくあります。基底順序を明示すると、回路や CNOT の誤りを避けやすくなります。

ベル状態

英語表記: Bell state

最大にもつれた2量子ビット状態の代表的な4状態。

|Phi+> = (|00> + |11>)/sqrt(2) は Z 基底で完全に相関した結果を与えますが、各量子ビットを独立した純粋状態として持っているわけではありません。

量子誤り訂正

英語表記: Quantum error correction

量子情報を複数の物理量子ビットに符号化し、一部の誤りを検出・訂正する方法。

量子誤り訂正は符号空間の冗長性とシンドローム測定を使って情報を守ります。未知状態の完全コピーを可能にするものではありません。

シンドローム

英語表記: Syndrome

量子符号に対して誤りのクラスを識別するための検査結果パターン。

シンドロームは、符号と想定誤りモデルを合わせて初めて回復操作を導きます。すべての物理誤りを一意に識別するとは限らず、訂正可能集合外の誤りは曖昧または訂正不能になり得ます。

フォールトトレランス

英語表記: Fault tolerance

不完全な物理操作があっても信頼できる計算を行うための設計原理。

フォールトトレラント量子計算には、誤り率、符号選択、オーバーヘッド、制御システムが組み合わさる必要があります。長い信頼できるアルゴリズムへ向かう道筋であり、単一のゲートではありません。

量子優位性

英語表記: Quantum advantage

定義された課題において量子的手法が古典的代替案より有利であることの実証または主張。

責任ある優位性の主張には、課題、仮定、必要資源、誤りモデル、比較対象を明記します。量子コンピュータがあらゆる問題で速いという意味ではありません。