この章の内容
学習目標
- テンソル積で2量子ビット状態を構成できる。
- |00>, |01>, |10>, |11> の基底順序を一貫して使える。
- H の後に CNOT を適用してベル状態を作る過程を追える。
- もつれ相関を、超光速通信と混同せず説明できる。
アリス、双子の観測所へ入る
単一量子ビットは、「状態は隠れたビットではない」と教えてくれました。2量子ビットはさらに踏み込みます。組になった状態は、必ずしも「1つ目の状態」と「2つ目の状態」の寄せ集めではありません。全体として初めて正しく記述できる模様が現れます。
量子もつれは、後に続くプロトコル、アルゴリズム、ハードウェアを理解するための重要な土台です。ここでは「不思議なつながり」という曖昧な言葉で終わらせず、状態ベクトルを使って相関とその限界を説明します。
前提の復習
必要なのは次の4点です。
- 純粋状態は規格化された振幅ベクトルである。
- 理想回路のゲートは線形でユニタリである。
- 測定確率は、選んだ基底での振幅の絶対値二乗から得られる。
- 相対位相は、1つの測定基底では見えなくても後の操作で意味を持つ。
結合状態空間
2量子ビットの計算基底は4つあります。
この講座では、特に断らない限りこの順序を使います。一般の2量子ビット純粋状態は
と書け、規格化条件は
です。
テンソル積
1つ目の量子ビットが 、2つ目が のとき、独立な結合状態はテンソル積で表します。
たとえば
です。これは2つの単一量子ビット状態の積として作られたので、分離可能です。しかし、4つの振幅を持つ状態がすべてこの形になるわけではありません。
制御ゲート
制御ゲートは、制御量子ビットに応じて標的量子ビットへの作用が変わるゲートです。最初に重要なのは CNOT です。1つ目を制御、2つ目を標的にすると、
です。線形性により、この規則は重ね合わせの各基底成分へ適用されます。 から始め、1つ目に H を作用させると
そこへ CNOT を作用させると
- 1
|00> を準備する
- 2
1つ目に H を作用させる: (|00> + |10>)/sqrt(2)
- 3
1つ目を制御、2つ目を標的に CNOT を作用させる: (|00> + |11>)/sqrt(2)
- 4
両方を測定すると 00 または 11 だけが出る
ゲート列は決定論的です。最後の測定だけが確率的ですが、結果は完全に相関します。
ベル状態
はベル状態です。これは という形には分解できません。積状態なら振幅は です。 では と の振幅が0なので と が必要です。一方で と の振幅は0でないため、 と も必要です。これらは同時に満たせません。
この純粋2量子ビット状態は量子もつれ状態です。組全体の状態は明確にありますが、単一量子ビット純粋状態の積では表せません。
古典的な共有コイン
- 測定前から確定した共有値として記述できる。
- 1つの基底で結果が一致し得る。
- 結合状態の相対位相を必要としない。
ベル状態
- 1つの結合量子状態で記述する。
- 局所純粋状態の積ではない。
- 複数の測定基底を適切に選ぶとベル不等式を破り得る。
どちらにも相関はあります。非古典的ベル相関の実証には、1基底での一致以上の測定が必要です。
計算例:分離可能性の判定
純粋2量子ビット状態 について、この基底順序では
が分離可能性の便利な判定条件です。この等式が成り立つとき、かつそのときに限り積状態です。 では両辺が0で、 と因数分解できます。 では 、 なので、もつれています。この簡便な判定は2量子ビット純粋状態に固有であり、混合状態のもつれにはより慎重な道具が必要です。
よくある誤解
ガイド付き演習
、 を使い、 を X 基底で書き直します。交差項が打ち消し合い、 が残ります。したがって X 基底でも結果は一致します。以下の演習では、この基底依存の構造を制御可能な通信の主張と区別します。
章末評価
次へ進む前に、 からベル状態を導出し、基底順序を明示し、Z 基底確率を計算し、それが分離可能な積状態でない理由を説明できるようにしましょう。
理解度チェック
まとめ
次の一歩
量子情報プロトコルが使う共有状態を説明できるようになりました。第6章では、複製不可能性、テレポーテーション、超密符号化を厳密な回路として扱います。
参考文献と発展学習
- Michael A. Nielsen and Isaac L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information.
- John Preskill, Lecture Notes for Physics 229: Quantum Information and Computation.
- IBM Quantum Learning, Quantum information for multiple systems.
章の演習
この章の内容を、短い対話型演習で練習します。
テンソル積マップ
単一量子ビット状態を2量子ビットの基底順序へ写す。
四枚の床タイル
アリスは |00>, |01>, |10>, |11> と書かれた床に立つ。案内人は「順序を言ってから進みましょう」と言う。
基底順序が先
この講座では |00>, |01>, |10>, |11> を使います。すると です。
CNOT の織機
H と CNOT がベル状態を作る過程を追跡する。
二本糸の織機
1本目の糸がシャトルを制御する。2本目は、1本目が 1 を運ぶときだけ反転する。
二つの決定論的ゲート
から始めると、1つ目への H で になります。CNOT は を に写します。
ベル相関の監査
もつれ相関を、通信や隠れた独立状態と区別する。
ヒント
監査机
アリスは「どの実行でも 00 または 11」という記録を受け取る。机は、それが何を示し、何を示さないかを尋ねる。
第5章 評価
テンソル積、CNOT、ベル状態、非通信性の解釈を統合する。
ヒント
三人目の守護者
守護者はアリスに、部分を名づける前に全体の状態を名づけるよう求める。
分離可能性テスト
2量子ビット振幅の条件を使い、積状態ともつれ純粋状態を区別する。
因数分解の机
純粋状態 に、2つの単一量子ビット因子が存在するかを判定します。
ヒント
この基底順序の2量子ビット純粋状態が分離可能なら です。この等式が破れれば、もつれています。
局所状態のレンズ
局所結果のランダム性と結合相関の確定性を同時に考える。
1つの窓、2つの記録
Alice には の1つ目の量子ビットだけが見えます。2人が記録を照合するまで結合結果は分かりません。
ヒント
2つの結果は必ず一致しますが、それぞれの局所的な Z 基底結果は一様にランダムです。
異なる基底でのベル相関
両量子ビットを X 基底で測定したときのベル状態を追跡する。
2つの分析器を回す
Alice は両量子ビットを X 基底で測定する前に、 を X 基底で書き直します。
ヒント
、 を使います。
通信を伴わない相関
相関、因果、制御可能な通信を混同する主張を診断する。
見出しの編集室
「ベル対の片方を測ると、選んだビットを瞬時に送れる」という見出しを Alice が修正します。
ヒント
各観測者がランダムな局所結果を選べるか、相手の局所確率分布が変わるかを確認します。
章の完了
完了した演習: 0/8
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